君恋し、おもいは八千代に募るまま
サザキ


何時からだろう、桜を見るとなんだかオレも気分が鬱っぽくなっちまう。 いや、何時からなんて考えなくても分かってる。 五年前からだ。 大事な仲間がいなくなってから。 姫さんからホントの笑顔が消えてから。 だからオレ今もわざわざこんなもんもって宮に向かってる。 われながらこんなもん、役に立たないと思ってるけど。 それでも、っておもっちまうオレってやっぱばかだな。 *** 「姫さん!」 なぜか執務中のはずが、歩いている姫さんを発見。 むしろ都合がいい。 なるべく明るい声で。 オレにできることなんてこれぐらいしかない。 でも、これぐらいで姫さんが一時でも笑えるならいくらだってする。 「サザキ!」 驚いた声に、オレが先に大きい声を出したのに口元に指をやる。 「しっ、ばれたらまたあのばあさんに怒られるだろ?」 そういうと姫さんは笑った。 それが昔とはちょっと違うこと、気づいても気づかないフリする。 「今日は、新しい宝を見つけたから持ってきた。」 「本当に?」 おせっかいって言われるかもしれない。 でも、オレこれを見つけたとき、一人しか思い出せなかったんだ。 姫さんに渡したいって思った。 「これ。」 手のひらサイズの石を渡す。 あどけない瞳がそれを上下させながら探っている。 少し楽しくなってオレはもったいぶった。 「なんだかわかるか?」 「わからないよ?」 「それはな、カリガネいわく、持って月の光の下で願えば記憶が再生される石らしい。」 そういった瞬間、彼さんの顔は少し固まった。 そしていつもの笑顔。 気づかないフリして。 明るく言う。 「すばらしいお宝だろう。」 「そうだね!」 「それ、やるよ。」 姫さんは目を丸くして、首を横に振った。 「ありがと、サザキ。気を使わせちゃったね。」 「・・・・別に。オレこそ迷惑だったか?」 「あのね、すごい嬉しかった。でも、きっとこの石は私は使っちゃだめだよ。」 「姫さん。」 「だって、記憶の忍人さんがいくら見れても本当は違う、いないんだって、 まだ私・・思えない。」 珍しく本音をこぼしてくれた姫さんにオレの胸もきしみ苦しむ。 姫さんはまだ、まだ、あの五年前にいる。 「でも、ありがとうね。」 なんどもありがとうという姫さんはすこし進んでるとおもう。 でも、オレはそんな贈り物をした自分が許せないんだ。 「ありがとう。」 そういってその後宝探しの旅の話をした後帰るオレに姫さんはいつもより うそじゃない笑顔でいった。 「サザキ。もうちょっと待ってね。」 「姫さん?」 「私、もう少し、したら気持ちの整理つきそうだから。 そうしたらまた空につれてってね。」 そういった姫さんはすこしふっきれた顔をしていたけど、 それが逆にオレには悲しくて。 なきそうになるのを堪えて、搾り出した。 オレじゃなくて悲しいの姫さんだから。 「ああ、待ってる!」 いつまでも、オレは待つよ。 姫さんが気持ちを落ち着かせるまで。 落ち着いたら、空に行こう。 忍人のいるところに一番近い空に。

サザキの優しさは気づいても言わない優しさ。 那岐と逆だと思う

Back Next