君恋し、おもいは八千代に募るまま
足往

忍人さま。おいら大人になりました。
力も強くなったし、考え方だって昔の子供じゃない。
でも、今でも出来ないことがあるんだ。
きっと誰にも出来ない、それは忍人さまの代わり。
姫様の心を直すこと。
春の花が咲き誇る、宮を歩いていた。
綺麗だけど昔みたいに単純に喜べないおいらがいる。
五年前から。
兄であり、父であったあの人は桜の咲く中逝った。
幸せそうな顔が逆に悲しかった。
絶対に強い偉大な存在がその実もろかったことをその時初めて知った。
しらなかったおいらだって苦しかった、どうしてあの時とか、
思い悩んで。
でも、知ってた姫はもっと苦しかったと思うんだ。
だから今も、毎日心から血が流れてる。
おいら知ってるんだ、姫が苦しんでること。
でも忍人様じゃないからどうにもできないんだよ。
そして、皆知ってるんだ、姫が苦しんでること。
ねぇ忍人さまどうすればいいんだよ。
「足往。」
小さく呼ばれて振り返る。
そこにはいつもよりも顔色が悪く感じる姫様がいた。
「ちょっと話しましょう。」
にっこりわらった顔は前よりも綺麗になったけど、
五年前の姫様の笑顔のような輝きはないんだ。
きっと忍人さまがもってっちゃったんだろうね。
***
「姫様とこうやって話すのひさしぶりだな。」
「そうだね。忙しくて。」
「お疲れ様。」
昔みたいに話して、そう懇願されて、なんだか懐かしい話し方。
そして、どこか足りないこの二人。
きっと姫様も気づいてるだろう、足りないのはただ一人。
あの人だって。
だから、こんな悲しそうな顔なんだな。
「ねぇ、昔もさ、こんな風に並んでたよね。でも足往はもっとちっちゃくて。」
「そうだったな、おいらもまぁもう一人前だからな!」
「ほら、あの時、足往調子にのって足を滑らせて、忍人さんが首根っこをつかんでさ。」
「ああ。あれはおいらひやっとしたよ。」
久しぶりに話す忍人さまの話。
姫は無理に話そうとしているみたいで、わざとらしく笑う。
いや、たぶん楽しいことは確かなんだろう。
でも、きっと、苦しい。
今日の姫はなんだか変で。
おいらはきいてしまった。
「なにかあったのか?」
そういうと姫はわざとらしい顔から戻った。
悲しそうな顔に。
「やっぱりわかるかぁ。」
「ああ。」
「那岐に、そろそろ心の整理しろって、いわれちゃった。」
「那岐に・・。」
那岐の気持ちは分かるけど、姫さまの気持ちを考えたら、
かわいそうだとおいら思った。
「もう、ごねんかぁ・・・。」
つぶやいた声はなんだか疲れていた。
五年、一言でそういうと短いようだけど、
おいらたちの気持ちはそんな簡単に治らなかった。
いつだって、おいらだってあのひとがいない寂しさをずっと感じてたんだ。
寂しくて寂しくて。
苦しくて苦しくて。
「おいら・・・。。」
気づいたら泣き出していた。
涙が頬をぬらして。
それを見た姫様はそっとぬぐってくれた。
「ごめんね、足往も辛いのに。」
違うんだ、おいらたち一緒なんだ。
大事な人を失ったの。
でもそんな風に姫様が我慢する必要ないんだ。
嗚咽をもらしたくなくて、声にならなかった。
「私、分かってきたんだ。」
「な・にが?」
「少しずつ、時間が流れてきてること。その中で気持ちが、整理ついてきて。」
「認めたくない気持ちはあるんだ。でも、このままじゃいけないって。」
「姫様。」
「一緒に、頑張ろうね。」
そういって、姫様とすこしまたちょっと話して分かれた。
ああ、忍人さま。
おいらたち進んでるんです。
だから、お願いだから姫様を見守って。
おいらはそう、神様じゃなくて忍人さまに祈った。
忍人の死を共有できるのは特に足往だと思う。
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