君恋し、おもいは八千代に募るまま
千尋


足の裏に土を踏みしめる感触。 どんどん土色の部分が減って、桃色に染まりだす地面。 一枚一枚積み重なったその地面を、申し訳なく思いながら踏みしめる。 たくさんの思い出が溢れてきて。 たくさんの思いが溢れてきて。 私の心はこんなにもまだ愛してる。 色あせることなく愛してる。 満開の桜にたどり着いたとき。 私は声をあげて崩れ落ちてしまった。 「・・忍人さん。」 涙声、久々に聞く。 ずっと涙が出なかったんだ。 ないたら、認める気がして。 那岐に言われなくても、誰に言われなくても本当は気づいてた。 私の心が、忍人さんの死を認めだしてるって。 でも認めたら、消えてしまうようで怖くて。 怖くて、必死にかき消していた。 何度も比良坂に行って探した。 思い出を思い出さないようにもした。 作り笑いを練習した。 みんなに気づかれているのに必死に隠した。 全部、無駄なことだって分かってて。 でも、無理だった。 簡単に認められなかった。 だから、桜を見ようって約束した約束ずっとずっと、五年も破って、待ってた。 だって、約束があれば、またいけるって夢をもてたから。 「ねぇ、綺麗な桜ですよ。」 あの人はいない。 この桜を一緒に見ようといってくれたあの人はいない。 「綺麗です。」 でも桜は綺麗で。はかなくてあの人みたいだった。 私の気持ちを気遣ってか、宮の桜は五年前なくなっていて。 五年ぶりに見る桜は、綺麗だ。 「でも、五年もたったんですね。」 ふと、風が花びらを舞わせて、私の頬をなでた。 ただの風なのに彼がいるようで。 馬鹿みたいだけど、笑ってしまった。 「忍人さん。」 何万回だって呼びたかった。 そして振り向いてほしかった。 「忍人さん。」 伝えたかったんだ何万回だって。 「好きです。愛してます。」 そして、傍で笑ってほしかったんだ。 「あなたが、好きです。」 見上げれば桃色の空は綺麗で。 五年ごしの約束は今果たされた。 私は、彼との約束を守った。 「進み、ます。」 今ここで全部悲しさを出して、進もう。 「立派な女王になりますから。」 彼の望んでた世界を作るんだ。 「平和な国を作りますから。」 「だから、少し待っていてくださいね。」 私の涙声に返事をするように、風がもう一度そよいで、頬をなでた。 そうして、 私の涙も桜の花びらと一緒に散らした。

暗くて長い話しにお付き合いありがとうございます。 あえて幻でも忍人を出さないのは私の勝手なこだわりです。 死はそんな幻でもなくて、現実を受け入れることから始まると思うからです。 これからの、千尋は頑張れると思います。みんなの支えを受けながら。
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