茨姫
どんなに好きだって、彼の心には入れない。
だって私の気持ちと彼の気持ちは違うから。
「姫!」
それははじめくすぐったくてうれしくて、でも今では何度も何度も重ねて茨を巻かれている気分。
多分ね、私がまだあの平和の世の中にいた気分だからいけないんだ。
私はあの世界で、自由すぎる甘さを知ってしまった。
好きな人に、立場とか身分とかなくて好きっていえる世界。
そんなところで育ってしまったから。
「好きだよ。」
そんなことが簡単にいえないこの世界。
それによって姉さまだって犠牲になった。
知らなければよかった、知らなければよかったあんな世界。
私にはいっぱい守らなきゃいけないものがあって、彼はそんな国の守護者としての私が好きで。
でもね、勘違いしそうになるんだ。
私が好きだって。
それは苦しくて甘くてそれでもうれしくて。
危険だからって手を握られて、あなたを守るっていわれて。
そんなのあっちの世界じゃ普通じゃなかった。
それは恋人のようで、もっと遠い。
彼は若くて、熱心に己の主君を探しているだけで。
そこに私って言う千尋という存在なんてない。
でも私はこの茨を編むような道を歩く。
たとえその錯覚でできたような恋のようなものを彼の目に写し続けるために。
女王になるという夢をともに見続けるように。
茨でできたカーテンに私という卑小な存在を隠して。
今日も私は戦うの。
暗いなぁ。
ふつひことは鈍そうだし、このふたりは複雑だとおもう。
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