こそあど
「それ、とって。」
ぼぉっと、千尋は片手にぽてちを食べながら目もむけずにそう言った。
しんどそうに舌打ちがきこえて、伸ばした手に硬いものがあたる。
「はい。動かないと太るからな。」
言わなくても通じる距離がどれだけ幸せだったか今ふと思い出して懐かしんで、消えた思い出。
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森の中を走った。皆でちょっと休もうと話して、皆からなるべくはなれたくて。
離れるなっていわれてたけど離れたかった。
別に皆が嫌いというわけじゃないよ。
ただ心配なんてかけたくないし、この頬を伝うものが知られたくなかった。
なんだろう、普段気張ってるせいか無性になきたくなるときがあって。
今はそのとき。
無性にではなくて原因があるのは自分で知ってるけども。
さびしい、んだとおもう。
皆といるのはうれしいけども、那岐はぜんぜん相手をしてくれない。
あのころみたいに私を見てくれない。
どうでもいい雑談がしたくて、でも那岐はどうでもいいみたいで。
こっちに着てから歯車がずれて壊れてきしんでいっているみたいで。
このまま離れちゃうのかな。
別に現代にいたときに私たち付き合ってたわけでもない。
すきだっていってたわけでもない。
けれども二人が一つな錯覚を覚えるくらい一つだった。
「あーもうぃやだな、こんな私。」
結構離れた場所で木にすがるように額をこすりつける。
「馬鹿みたい。」
もっとつよく額をこすりつけようとしたその刹那、肩をぐいと引かれてなにかが覆いかぶさってきた。
急に唇に触れるなにか。
誰なのか、とか何なのかとかいらなかった。
ただ目を閉じて受けるだけ。
頭の中から考えなんて霧散して。
「これがほしかったんでしょ?」
キスを終えた彼の言葉は憎らしいくらいで、それでも私は笑ってしまった。
あまりにもなにもかわってなくて。
那岐はことばより行動といった感じ。
現代での生活は豊葦原での暮らしをさらに
辛いものにすると思う。
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