最後の人


明るい日差し、鳥の鳴き声。 長い間無くなっていたものがとりもどされたこの国に春がやってきた。 それは冬が長かった分格別なものに布都彦には感じられた。 日差しの中、きらきらと光を反射する至高の金色の髪に目を細める。 それは美しくもあり、愛しくもあった。 「ねぇ、春ってうきうきしない?」 「はい、特に今年の春は格別です。」 それはこの春のあたたかさも、隣にいる彼女も理由にあった。 けれども言うには自分はまだ幼く気恥ずかしく感じたので彼は言わずに微笑むだけにした。 彼女はその微笑に微笑をかえした。 「そうだね。」 彼女が何を思っているか彼にはわからない。 けれども同じように考えていてくれていると信じる。 幸せをかみ締めて彼女を見ていると目線をフイとそらされた。 「姫?どうかしましたか?」 「だって布都彦があんまりにも甘い目でみるから。」 照れたのであろう、頬を二つの小さな手で挟んでそっぽを向く彼女。 そんな姿も愛しい。 そして目線ですら伝わる自分の愛にすこし誇らしげな気になった。 「それは姫が愛しいからです。」 真実は時として甘く、彼女には甘すぎるようで。 もう、とわざとらしく怒りながらも笑顔は深くなる。 彼にはどうしてこんなにも笑みをみるだけで愛しく感じるのかわからなかった。 生まれてはじめての感情にとまどいつつもそれがとても大事だとわかる。 「姫が私の初恋です。」 「え、そうなの?」 「はい。」 「本当に?」 「はい。」 だから、こんなにも愛しくなると思わなかった。 こんなにも兄の気持ちがわかるとは思わなかった。 それでもこの状態は悪いものではない。 「そっか、私布都彦の初めての彼女でうれしいよ。」 「彼女?」 「んーと付き合っている人ってこと。」 そして千尋は小さく彼の腕をつかんで笑顔で言った。 「でも、最後にもなるから、私。」 「もちろん、姫の最後もなります。」 こんなにもあまやかな感情をしらなかった。 でも、これを知るのが今でよかった。 つないだ手がもう二度と離れないように、布都彦はもう一度硬く指を絡めた。

エンド後のふたりのふんわり感が出したかった。まだ若いからね!

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