恋の沼
アシュヴィン×千尋
売り言葉に買い言葉、だったんだとおもう。
そんなの分かってる。
でも、許せなくて。
「どうせ女のところでしょ。」
「だったらどうする。」
「最低だって思うだけよ。」
「ふん。」
何時だって余裕しゃくしゃくなアシュヴィンが癪に障る。
だから、何時だって、困ったリブを無視して、こうやって諍いを起こしてしまう。
「でも、別に私気にしないもの、せーりゃくけっこんで結婚させられただけだもの!」
「だったら、なにも言わなければいいだろう?」
「いいたくもなるわよ!ないがしろにされたら誰だってやでしょ。」
「それは気にしてるんだろ。」
「・・自意識過剰。」
「かわいくない女だな。」
ああ、またやっちゃった、あとになればそう思うのに、何時だってこのときは全力投球。
最近こういう諍い増えたかもしれない。
「もういい!」
「よくない、話はまだあるだろう。」
「いいっていってるの!こないでよ!」
「話があるといってる!」
アシュヴィンはよっぽど腹を立てたのか私の腕を離さない。
きしむ腕が痛くて、むかついた。
「千尋。」
そういって、近づいてくる唇に、封じられてたまるかって思って。
噛み付いた。
「イタっ。」
お互いに、私は私の手首を抑えて、
アシュヴィンはかまれた唇を指で触れる。
「何でも口をふさげばいいと思わないで!」
「うるさい女は口をふさぐに限るからな。」
「私は、そんな女じゃない!」
気づいたら、叫んでた。
あんまりにも自分が惨め過ぎて。
素直に痛い思いさせてごめんねっていえない自分。
どこ行ってたのって、聞けない自分。
女らしさのかけらも無く噛み付く自分。
全部がいやだった。
そしてそれはアシュヴィンがいるから現れる女の自分。
こんなじゃなかった。
そう、こんなときこそ強く、自分が彼に恋をしているただの馬鹿な女だと気づいてしまって。
悔しかった。結局私の負けなんだ。
「悪かった。」
アシュヴィンは赤い血のにじんだ唇でそう紡いだ。
すこし落ち着いたのかもしれない。
でも私の心は落ち着かない。
大人になれないの、割り切れないのあなたみたいに。
どうしてこんなにも自分が女なのか、
悔しいくらい、女で。
「千尋。」
かたくなに口を噤む私をアシュヴィンは抱き寄せる。
この人はきっと私がもっと違ったら優しい人なんだろう。
「悪かった。」
自然な流れで私のあごに触れて、顔を上げる。
私じゃなかったら、この人は幸せなんだろう。
「千尋。」
口付けられる。優しい、彼をあらわすかの様な口付け。
「愛してる。」
耳元でささやかれる言葉。本当は一番ほしい言葉で、今一番ほしくない言葉。
だって、たった一言真実なんてまったく分からない言葉でも
私の心は歓喜に震える。
「ずるい。」
アシュヴィンは私の言葉に複雑な笑みを浮かべる。
その表情の意味なんて私には分からないんだよ。
「お前以外の女なんていない。」
分からずやで子供な私のために、伝えてくれる不器用な言葉。
もしかしたら私は愛されているかもしれない。
今の私はそう、願いをこめながらますますのめりこんでいく恋の沼。
女であるのがいやだと思いながら、彼の優しいキスを受けていると、
女であってよかったと思う私がいるのだった。
二人には大いに喧嘩してほしい。
そんななか愛をはぐくんでほしい。
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