あまいかけら


甘いチョコレート、生クリームたっぷりのショートケーキ、 ふわふわのマドレーヌ、冷たくておいしいアイスクリーム。 昨日の夢はそんな夢で、思い出すほどおいしそうで、 食べれないと思えば思うほど食べたかった。 「あまいもの食べたい。」 「姫?」 「あ、なんでもない。」 姫と呼ばれる立場なのにあまつさえ、好きな人の前でよだれをたらしそうなくらい、 食べ物に執着してるなんていうの恥ずかしくて笑って濁した。 布都彦の目は不思議そうに私を見ていて、 恥ずかしさも手伝って、私は目をそらして適当に話を終えて部屋に戻った。 「そう、この世界にはないのよね。」 あの世界のぜいたくな食べ物を思い出すと残念な気分になる。 なにせあれは至上の食べ物と言ってよかった。 こっちにきてから、こんな状態だから当然と言っちゃ当然だけども、 甘い、甘味を感じるものなんて久しく食べてない。 カリガネの手作りのお菓子はおいしかったけれども、 早々何度もねだるわけにもいかず、 ただ、こういった甘いものを食べたい衝動は唐突にやってくるものだ。 「あーもう、たべたいよぉ!!」 ベッドの上でしばらくもだえた後、ストレスを十分解放したあと 姫らしくまともな顔をまとって部屋からまた出たのだった。 *** 「え、帰ってない?」 夕暮れ、すっかり日も暮れ、夕食の時間に集まったとき、、 いつもは同席している、気づくと探してしまう彼がいないことに気づいた。 「ああ、なんだか一人で出かけてそれから。どこいったんだろうな?」 「外に用事かな?」 「用事なんてないだろ?こんなとこ。」 散歩するならわかるが、こんなところに知り合いがいるは思えない。 彼が天鳥船に出る理由なんてわからない。 だからみんな困惑しているようで。 「まぁ、待っていれば帰ってくるでしょう。布都彦とてもう大人なのですから。」 道臣の言葉に一抹の不安を感じながらもみんなはご飯を食べだしたのだった。 *** 夜になると世界は暗くなると、この世界に来て初めて知った。 空を見上げれば満天の星。 私は船の入り口に座り込んでいた。 そっと人影が見え、思い描いてた姿よりもややぼろっとした彼がいた。 「どこいってたの?!」 怒鳴るような声でつい感情的に言ってしまった私に、 布都彦はにっこりわらった。 「姫、野いちごを取ってまいりました。」 布都彦の髪や体は暗がりでもわかるほど枯れ葉がつき、薄汚れていて、 きっと探し回ってくれただろうことがわかった。 「布都彦・・・。」 どういったらいいかわからない。 ただうれしいという気持ちが湧き上がって胸になにか暖かいものを抱きしめたようだった。 「ありがと。」 「いえ、心配をかけてすいませんでした。」 「それは、そうだね。」 彼の持っていた布―たぶん彼のマントのような布だったもの―から野いちごを口に入れる。 甘酸っぱいその味が口に広がって。 それは私の求めていた味とは違ったけれども、 どんな甘い食べ物よりも甘く幸せに感じて。 「おいしい。」 どんな甘いものよりも、甘いチョコレート、生クリームたっぷりのショートケーキ、 ふわふわのマドレーヌ、冷たくておいしいアイスクリーム。 どんなおいしいものだってかなわない。 一生のうちで一番おいしいと感じた瞬間だった。
布都彦はつっぱしるから絶対誰にも言わないで行きそう。

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