キミの全てを抱きしめる
忍人×千尋
好きでいてほしくて、頑張ってて。
彼がすきだから彼に似合う女になりたくて。
やっと通じた思いは今度は失いたくなくて。
忍人さんへの思いは何時だってジェットコースターみたいにとまることない。
走り抜けなきゃ着いていけないって思ってたんだ。
捨てられたくないし、誰よりも自分自身に厳しい彼にあきれられたくない。
だから今だって唇をかんだ。
「千尋。」
ぎゅっとかみ締めた唇の痛みは感情が流れるのを抑えてくれる。
そんな気がして血がにじむくらいかみ締めた唇に彼は指で触れた。
かたい、男の人にしては細い指が私の唇をなぜる。
力を抜くしかなくて、緩んだ唇をなめると鉄の香りがした。
「唇が傷ついてる。」
「ごめんなさい。」
忍人さんはため息をついた。
それはあきれたようで不安になった。
「ごめんなさい。」
泣いちゃいけない。
元々女の子の武器のようで私は涙なんて嫌いだったし、
きっと彼も嫌いだろう。
涙なんて何も役に立たない。強くなるには必要ない。
我慢しろって言われるだろうと思って、今度は手に力をいれた。
「千尋。」
聡い彼は今度は私の握り締めた手のひらを優しく開いた。
「キミはどうしてそんなに、強がる。」
「強がってなんて、ません。」
「強がってるだろう。泣きたいなら泣けばいい。」
そうやって言ってくれた言葉に不覚にも私は感情をあらわにしてびっくりしてしまった。
「泣いて、いいんですか?」
「泣きたいならば。」
「でも、嫌いになったりしませんか?」
不安だった、彼の顔がさっきから浮かない表情だから。
案の定彼の顔は私のせりふに辛そうにゆがんだ。
「キミは俺をなんだと思ってるんだ。」
「何って。」
「千尋が、泣きたいときに傍にいる、支えるために俺がいるんだろう?」
「でも、強くならなきゃって、泣いてるのは弱いし。」
「それでも悲しいのを我慢する必要はないだろう?」
「でも。」
強くならなきゃ、彼に似合うようにならなきゃ、弱みなんて見ないようにしなきゃ。
そんな強い信念が揺らぎだして、私の目から涙がこぼれだした。
「みんなの前で泣くのは止めて欲しい。
けれども、俺の前では弱音くらいはけばいいだろう?」
さも当然に、受け入れると言われた甘い言葉に、私の涙は激しくなった。
気づくと嗚咽を混じらせ私は彼に抱きしめながら泣いていた。
「つくづくキミは俺を何だと思ってる。」
「だって。」
「俺とて愛する人のすべてを見たいとは思うんだ。それに他の人にこんなキミを見せたくない。」
「じゃあ、忍人さんには見せていいんですね。」
「当然だろう。」
せき止められていた物が崩壊したとき、私はもっともっと彼のことが好きになった。
弱さも強さも受け入れてくれる彼のことがもっと好きになった。
涙は悲しいけども、それと一緒に嬉しさも混じってなかなかとまらなかった。
忍人さんと付き合うとき、私はきっと気張ってしまって上手くいかなそう。
つりあう人になりたい一身でそういう変な方向に頑張っちゃうってあるよね。
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