おんなのこなの


放課後いつものように那岐を迎えに行ったときだった。 「てか、成瀬はさ、あのふわーってするシャンプーの香りがよくないか?」 「それ俺も思った!まじ髪綺麗だしな。」 「那岐はどうなんだよ!」 「僕は・・千尋。帰るかい?」 那岐は私が近づいたことに気づいたのか紡ごうとしていた言葉を止めて。 私は気になって悶々と頭からフレーズが外れなかった。 「男の子って、シャンプーのにおいとか好きなんだ。」 一人で部屋に帰ってぼそりとそのことを考える。 那岐はなんて言おうとしたんだろう。 気になって仕方ない。 でも、みんながそういってたようにかなり有効なのだとしたら。 「だめじゃん、私。那岐とおんなじだって。」 同居つまりそれはだいたいの日用品をシェアするということで。 もちろん私と那岐もシャンプーなんて一緒の。 ボディソープだって歯磨き粉だって。 「これじゃときめかないわよね。」 那岐の態度には実際悩むばかりだった。 いつだって近くにいて、私のこと文句言いながらかまってくれて。 でも、女の子には見られてない気がして。 いつだったかわからない昔にこの恋心に気づいてから、 ずっと悩み種だった。 でも、那岐が私以上に仲良くしている女子なんていない。 でも、那岐はもてる。 ため息とともに明日の予定を決めたんだった。 *** 翌日、放課後。 私はドラックストアのシャンプーコーナーの前に立っていた。 どの香りとか考えたことすらなくて。 わからない、けれどもパッケージが一番かわいいやつを選んで会計をする。 少しでも関係が変わってくれればいいな。 気持ちに気づいてくれればいいな。 そんな風に祈りながら。 *** お風呂をあがってから、ずっと気分がうきうきしてた。 髪を乾かして、ご飯を鼻歌交じりに準備して、 那岐にこの大人な自分の香りが届くといいなぁと思いながら。 「ごはんだよー。」 呼ぶと、風早と那岐はもそもそと居間に揃う。 食卓にはご飯、自分はいい香り、そんな中なごやかな食事が始まる。 「そういえば、さ、新しいシャンプーいいね。香りがすきだな。」 那岐の一言に私の気分は沈みまくった。 「使ったの?」 「うん。」 いけしゃぁしゃあとご飯をつつき続ける那岐にいいようのない怒りがわいてきて、 泣きそうになって。 思わず私は箸をたたきつけて立ち上がった。 「なんで人の勝手につかうのよ!」 「はぁ?何怒ってるんだよ、別にシャンプーごとき。」 「すみません、千尋、使ってしましました。」 「風早はいいの!!」 「なんだよそれ!?」 「なんで、使ったのよ!馬鹿!!」 そのときもう私は涙目だったと思う。 期待が大き過ぎたのと私の女の子としての気持ちを踏みにじられた気がして。 悲しくて。 「もういい、那岐の馬鹿!」 「千尋、ごはんが。」 「いらないっ!!」 *** どなりつけるように部屋に入ってドアを閉めて、突っ張り棒を入れて。 ベッドにもぐりこんだ。 すすり泣きが聞こえないように布団のなかにくるまって。 「ばかみたい。」 自分だけ期待して、から回って怒って。 こんな風にお子様だからだめなんだ、自分でそう考えたらさらに悲しくなって。 「ふぇ。」 涙が止まらなくて。 「千尋?」 扉の向こうから声が聞こえた。 一番大好きで、いま一番聞きたくない声。 「何をおこってるのさ?」 「ごめん、もういいや。ちょっといらいらしてたの。」 「シャンプーぐらいだろ?」 「そうだね。ほんとうにそうだね。」 シャンプーぐらいだ。ただそれだけ。 そんなものでこの関係が変わるわけないくらい、誰だってわかる。 でもそんなものに頼りたい自分だっている。 苦しくて、近くにいるだけ寂しくて。 胸が痛い。 「千尋、開けてよ。」 「やだ。」 「開けろってば。」 「やだ。」 「開けないと突き破るよ。」 那岐の声が真剣味を帯びていて。 こんなとき那岐は有言実行なのはよく知っている私はしぶしぶ空ける。 「泣くなよ。」 「うるさいなぁっ。」 恥ずかしくて、そらした顔を強引に向けられて指で涙をぬぐわれて。 そんなことするから私、もっと好きになっちゃう。 こんなことするのに、那岐は私のこと好きじゃない。 「他の子にもこんなことするの?」 「は?」 「・・なんでもない。」 自分が馬鹿らしく感じて、恥ずかしかった。 那岐はため息をついて、あきれられたんだなっておもった。 「しないよ、千尋にだけだ。」 「・・。」 うそつき、だったらよかった。 だってそんなこと言われたらまた深まるばかりだ。 私だけ、私だけ。 「千尋はそんなこと言わなきゃわからないわけ?」 那岐の少しいらだちのこめられた声が聞こえる。 でも私だっていらだってる。 「そうだよ!わからないもん。」 「鈍感。」 「はぁ?!」 「鈍感だっていってるんだ。」 「そんなの那岐じゃん!」 「僕は鈍感じゃない。千尋が鈍感だろ?」 「違うもん!!」 「じゃあ鈍感な千尋に特別に言ってあげるけどさ。」 「なによ。」 「僕がこんなふうにするのは千尋だけだから。」 「わかったら、泣きやみなよ。」 そのときの那岐がこころなしか照れてるみたいで。 私の心は休息に落ち着いて、それから嬉しくなったんだった。

この二人の微妙な距離はたまらん!

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