「かわいいって言ってほしいの!」
本を読んでいた彼にいきなり降ってきた言葉は脈絡のないもので、
彼はページをめくる手を止めることとなった。
彼の読書を中断することに成功した彼女は、
少し不満そうで眉をひそめる恋人の表情に気付かず、
ほほを愛らしくそめて、必死にもう一度同じ言葉を繰り返した。
「エスト、かわいいって言ってほしいの!」
そんなに照れるなら言わなければいい、至極まともなことを考えながらも、
エストはそんな言葉言えるわけがないと思った。
大体、好きだとすらいえない自分にそんなビラールやアルバロのような言葉が出るわけもない。
「ルル。」
ため息をつけば、うつむいてほほを染めていたルルが顔を上げる。
案の定彼女は不満げに頬をふくらましていて、それでも自分にもできることとできないことがあるとエストはため息またつく。
「この際思ってなくてもいいもの、とにかくいってくれたら幸せな気持ちになれると思うの!」
「そんな言葉必要ないとおもいませんか?感情が入ってないなんて。」
「うっ、でもエストの口から聞きたいのよ。」
たとえ嘘でも。小さくなった彼女の言葉は少し自信がなさげで。
その様は主人に叱られた動物のようであった。
「いえばいいんですよね?」
「うん。」
少し不満げにとがらせた唇は分りやす過ぎて愛らしくて彼は少し笑いたくなった。
「はいはい、かわいいですよ、ルル。」
恥ずかしさから、わざとらしくことさら感情を込めずに言う。
そうすればさらに拗ねた彼女が膨れて文句を言って、笑って流すつもりだった。
エストは。
しかし、予想に反して彼女は顔を真っ赤にしてうつむいて。
「反則よその笑顔。」
どうやら目は口よりも物を言うようだった。
002:そんな淡い願いごと
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