人のぬくもり、温かい気配がしてチハヤは目を覚ました。 ぼんやりとした思考の働かない頭で窓の外をみれば暗くて、まだ夜が明けていないことを悟る。 温かい気配は、チハヤの首にすがりつくかのように腕に力を入れる。 「アカリ。」 返事の期待などせずに、ただいとおしいものの名前を呟く。 案の定、返事はないが、それでもチハヤには十分だった。 夢であるのか、そう思う思考は、寝起きのままではっきりしない。 ぼんやり、ぼんやりしながらも、でもこれが夢でないと知っている。 自分を抱きしめている彼女を抱きしめ返して、それが現実だと実感できる。 幸せがじんわりと胸に広がり、チハヤは目を閉じた。 これが夢でないと分るから、僕は瞳を閉じよう。 夢のように幸せなこの瞬間は夢ではない。 目を閉じてもう一度眠ったとしても、この現実は消えない。 夢よりも幸せな現実に満たされながらチハヤはもう一度眠りの世界へ入るのだった。 夜明けまでまだ遠い。


001:夢ならどうか覚めないで
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