ラフメーカー 志水×香穂子


伝えたい言葉があふれそうで、僕は走った。 今朝の悲しそうな彼女の顔。 そんなのもうさせたくなくて。 謝るだけではなくて愛しさを伝えたくて。 なんでだろうか、絶対にいると思った屋上の扉を開けば、まぶしい日の光が目をくらませて。 その光とともに声が聞こえた。 太陽のまぶしさよりも僕がまぶしいと思う声。 「志水くん?」 驚いたような、その声はいつだって一つ一つの言葉が僕に音をくれるようで。 そのすべてを集めれば天上の音楽になるだろうとおもう。 「香穂先輩。」 普段あまり運動をしない僕だから、息がきれてしまって、名前は途切れ途切れで、 それを心配したのか、すぐさま、驚いた顔から眉がひそめられる。 「大丈夫?」 そういって近づいてくる先輩を力いっぱい抱きしめた。 「ちょ!?」 見た目以上に華奢な先輩は簡単に腕の中に入って。 すっぽりと腕に僕でも包める体からは暖かい太陽の香りがした。 なんだかこのまま眠ってしまいたいとすらおもう暖かさだったけれども、 それではいつもと同じだから。 「今朝はすいません。」 「え?あ、今朝?」 今日、先輩と登校中に遊びに行かないかといわれたのを、チェロを弾きたいと断ってしまった、 そのときに見せた少し切なそうな顔が授業中にも離れなくて。 どうして僕はこんなにもうまく彼女を笑わせてあげれないのだろうと思った。 「僕は、うまくしゃべれなくて、いつでも先輩を笑顔にしたいのに、だめで。 ほんとうは土浦先輩や天羽先輩の前の先輩みたいに笑っててほしいんです。」 「うん、ありがとう。」 まとまらない思考を一生懸命まとめたつもりがさらにわからないことを言ってるよるになったけれど、 先輩は背中をぽんぽんとたたいてやさしくそういってくれた。 「でも、私志水君の前では二人といるとき以上に幸せだよ?」 「ほんとうに?」 「そりゃあ好きな人だもの。」 照れくさそうに笑う彼女がもういとおしくてたまらなくて。 こういうときどうしたらいいのだろう、抱きつぶしてしまいそうだった。 「志水くんは志水くんのままでいいんだよ。」 「面白いところとか、話題の場所に先輩を連れてってあげれなくてもですか?」 「うん。だって私志水くんといれればどこでもいいし。」 ああ、この人はなんて愛しいんだろう。 僕はもう言葉で伝えられなくて、でも言葉にしなくてはいけないといわれたから。 「先輩が愛し過ぎます。」 「え?!」 「先輩が好きすぎて、僕はよくわからなくなります。」 「ちょ、志水くん。」 「言葉が見つからないんです、この気持を表現する。」 「志水くんてば。」 「好きです。」 何度そう言っただろう、彼女は真っ赤になって、僕は少しすっきりした。 回数を言えば伝わるなんて思っていないけれども、少しでも伝えられたならばいいかと思う。 「ねえ、誰かになんか言われたの?」 「クラスの女子が、気持をちゃんと伝えてくれない男はだめだって。すぐ捨てられるって。」 「なっ、捨てないから大丈夫だよ。」 「先輩はうれしくないですか?」 「いや、嬉しいけれど。」 そう言いながら、先輩は自分の顔を抑えながら言った。 「あんまり言われすぎると私の心臓が持たないよ。」 「心臓にわるいんですか?」 「うん。」 「じゃあ、一日一回にします。」 そう僕が言えば、先輩ははにかみ笑顔で、僕の髪に触れた。 「ありがとう。」 そうやって触れられて、うれしくて僕はまた抱きしめて。 「僕、言葉より態度のが好きみたいです。」 そう言った僕は先輩に怒られたのだった。

TPOというものをまったく考えない彼。
意外と周りに言われたことを気にしそうだ。香穂関連だと。
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