抱きあいすすむ道 柚木×香穂子


本当に不器用でなんて愛しいんだろう。 私の瞳は涙すらこぼさないけれども、これこそ私の愛ゆえである。 彼は冷たいことを言って突き放すけれど、それこそ彼の愛ゆえである。 ただの普通のカップルだったらよかったなぁんて思うけれど。 それでも、きっとそんな道が残されている人と出会っても私はあなたを選びました。 だから、あなたも逃げないでほしい。 まっすぐに私が見つめると彼はすぐ瞳をそらす。 だからもう私が瞳にはいらないと入れないくらいの距離に近づく。 そして覗き込む。 「大胆だな、香穂子。」 強がってるのなんてわかるから。 でもどうしたらいいかわからない。 先輩は私に線引きのなかに入れてくれたように扱うけれど、 実際私はまだ彼の心のなかになんて入れてない。 こうやって自分を創って、見せてくれないんだ私にすべてを。 「先輩。」 「なんだよ。」 何を隠してるのかわからないけれど、きっとちゃんと聞かないとだめになるって思ったから。 「何を隠してるんですか?」 「別になにも。」 「言ってください。」 すこし高い肩をつかんで訴えれば、彼は急に私を抱きしめた。 心臓が高鳴り、一瞬甘いめまいがする。 「言ってください。」 「俺は、絶対お前を離さないからな。」 そういってもう彼はくちをつぐむ。 こうなったら彼は何も言わないことをわかってるから。 私は背伸びをして、彼の頭を胸に抱きしめる。 「ふっ。」 先輩が笑う気配がした。 「結局、抱きしめるつもりが抱きしめられてるのかもな。」 「言わなくてもいいですけど、一人で抱えるのはやめてくださいね。」 「ああ。」 ああと返事しながらこの人が相談なんて殊勝なことするなんて思ってない。 プライドはエベレストよりも高いこの人とどうすればうまくつきあえるだろうか。 結局、なんもかも包めるようにするしかないのかもしれない。 そう思ってもう一度強く抱きしめれば、 珍しく先輩は甘えるようにすりよってきて。 胸の中が、満たされた。 抱きしめるつもりが抱きしめられて。 包み込むつもりがつつまれて。 結局のところ、あなたさえいれば私は満たされるんだろう。

先輩はぜったいに相談とかしなそう。
でもたまに甘えてくれるときゅんとするよね!
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