嫉妬心 志水×香穂子


自分って心が狭かったんだなって今日思った。 でも、不機嫌な気持ちがとめられなくて。 私は今目の前の彼のことを見ることなんてできなかった。 *** 駅前の交差点。 見慣れたかわいい顔を見つけ、私は声をかけようとした。 しかし、そのそばにはなぜか見慣れぬ女性の姿。 今日は用事があるから、そういって私の誘いを断った彼が女性とチェロを持つことなく駅にいる。 それがどんな相手なのか、とかどうでもよかった。 ただ血が沸騰するような悔しさを覚えて、私は声をかけず、友達との待ち合わせに向かった。 結局、あまりの悔しさに私は友達との久々のデートも楽しめず、 早々家に帰った。 携帯を見る。 着信0件。 メールは一件、ちょっと意地をはってゆっくりわざわざ見れば。 迷惑メール。 完全に裏切られた気分で私は携帯をベッドに投げつけた。 「もーいや」 こんな自分が嫌いだ。 今まで恋愛でやきもちなんて焼いたことなくて、むしろそんな気持ち面倒だとすら豪語してきた。 ただ、彼には違う。 実のところチェロにだってやきもちを焼きたくなる時だってある。 これが恋というものなのか、でもそうだったらとっても厄介。 とりあえずこの気持ちを収めるために寝てしまおうと私は不貞寝を決め込んだ。 なにか振動音で私はぼンやり目覚めた。 携帯がなってる。 色はしろ。 つまりは彼からである。 でもなんだか出たいような出たくないような、そして眠くて無視して眠る。 浮上した意識は簡単にまた夢の中に戻れた。 次の日。 私は毎朝一緒に行くと約束したことをやや後悔しながら家をでた。 珍しく彼は遅く、走ってくる。 「すいません。待たせましたか。」 走ってくる彼をいつもはかわいいと思うのにいまはなんだかいらだって。 ただ一言。 「遅刻するからいそご。」 そう言った。 そのあともなんだかこんな自分が嫌だけど、でもどうすることもできない感情がにじみ出て。 本当は志水君は悪くないけれど、今はもう無理だった。 「香穂先輩。」 彼は珍しく戸惑っている。 「なに?」 「怒ってますか?」 「別に。」 会話終了。 彼はしゃべるほうではなく、普段の登校中は私がしゃべってるから今日はことさら静かな登校。 「やっぱりなにか怒ってますか?」 「別に。」 なんどかそのやりとりを繰り返したとき、彼が急に動いた。 私の手をつかみ、急に引っ張って、私たちは通学路を外れた小道に入り込んだ。 「な、なに?!」 めったにない、彼の力ずくの行動に私はびっくりしていたらふわりと猫のような毛が私のほほに当たった。 つまりは彼が私を抱きすくめていて。 「え、え?」 一気にパニックを起こす。 「ごめんなさい。」 「志水くん?」 「先輩どうしたんですか?」 そりゃあそうだ、彼にはなにも悪いことをした心当たりもないのにこんな冷たくされたら嫌だろう。 いつになくはかなさが加わった彼に私も抱きついてみる。 こうやって体温を感じていると醜い嫉妬心とか、いらいらとか消えていって。 ああ、もうこうやってずっといれればいいのになんて無理なこと考える。 「私、嫌な人間なの。」 「そんなことありません。」 一層力を込めて抱きしめられて。少し骨がきしみそうだった。 彼は何かにおびえるかのように私を離さない。 「話すから、その代わり嫌になっちゃだめだよ?」 「嫌になんてなりません。」 そこは悩むべきところなのにかれは即答した。 もしかして私ってもっと自信もっていいのかななんて思いながら私は昨日のことを話した。 「だ、だからね、別にいいんだけど、いいけどなんか志水くんがそうやって女の人と楽しそうなのみたら、 なんかばーって頭に血が上る感じだったの。」 自分の幼さとかが際立つ気がしてはずかしい。 そして、気づいたら自分の独占欲だとか、だだもれな愛情を伝えてるみたいで。 「こないだ会っていた人はチェロの先生の兄弟子です。あ、女の人だから姉弟子ですか?」 「そうなんだ。」 なんだろう、ただ誰といてもいいとか思っておきながら、実際そうやって聞けば非常に安心して。 単純なくらい安心してしまって。 「こっちに来るといっていたので案内することになっただけです。 先輩にちゃんと伝えておけばよかったですね。」 「ううん、私が、わるいんだけど。別にそんなのいいけど。」 「これからはちゃんと先輩に伝えます。」 「いいんだけど。」 半分ホントで半分そうしてくれたらいいなんて思っちゃう自分が恥ずかしくて、 でもそれを見抜いたかのように志水くんは私に微笑みかけた。 「先輩もう怒ってませんか?」 「だから怒ってなんてなかったんだよ。」 小さな子供みたいなやきもちを焼いていたなんて恥ずかしくて、 でも彼はそれをあやすみたいにずっとさっきから私の背中をなでている。 「僕もっと、先輩のこと考えます。」 「え?」 「昔から人の気持ちをもっと考えなさいって言われてて。でもあまり考えてなくて。 先輩のこと大事だからもっと考えます。」 そういってにっこりと笑った志水くんにかかれば私の嫉妬だとか、醜さも見えてないようで。 ただただにこにこしている彼に、恥ずかしさを隠すため私はもう一度抱きついたのだった。

志水君に対してはあまり嫉妬とか必要なさそう。
香穂とチェロしかみてないって。
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