うたかたのゆめ 志水×香穂子


「ねえ、先輩、私の夢聞きたいですか?」 「ああ。」 彼は目を閉じ、音楽を聴くかのように私の声を聞いた。 「私の、夢は、好きな人と結婚して、子供が二人くらいいて、休日には皆で出かけて。 そういう暖かい家を作ることなんです。」 彼に語ると私の夢はなんて空虚なんだろう。 私は、そしてなんでこんな話をしているのか、うっそりと思う。 でも本当はなぜかわかっている。 「ああ、それは素敵な夢だね。」 「そうでしょう?」 「でも、僕とは無理な夢だね。」 聞きたくないとおもいながら私はこの言葉が聞きたかったのかもしれない。 こうやって小さなとげを日常に入れて、私はこの人から離れる準備をしている。 離れたいわけじゃない。 あきらめられる自信なんてない。 けれども、一瞬でこの人を失うなんて無理だから。 こうやって、少しずつ毒を混ぜるかのように私は自分で自分を戒める。 この人に恋して、好きになりすぎては悲しい思いをすると知ってるから。 「いつか、かなえられるといいな。」 おれではない誰かと、そういえない彼は本当は優しくて悲しい人。 私はこうやって自分だけでなく彼にも苦い思いをさせる。 「はい。」 本当は、あなた以外とそんな夢みたくなんてない。 好きで好きでたまらなくて。 ただ一言、本当はああ、叶えようといってほしい。 相反する望みを込めていつもこんな話をする。 私の答えに彼はすごくきれいな笑顔で笑った。 それはきっとかなわないことを知っているからだ。 「香穂。」 抱き寄せる手は暖かくて、いつか失うなら私はどうなるのだろう。 こころが彼に触れられると響くようにゆれる。 「先輩好きです。」 今はただ、馬鹿みたいに伝えたくて、そういえば彼はもっと美しく笑う。 でもその美しさはまるでガラス細工のようで。 唇に触れる彼の唇。 いつだって私はこれが最後のキスかもしれないと思う。 今日も最後かもしれないと思う。 本当は彼の人生に私というより道なんてあってはいけないのかもしれないけれど。 酔狂な遊びでもいい。 ただ、今だけはゆめをみたい。 ゆめという醒めたら壊れるあわのようなものが私たちの関係にぴったりだと私は目を閉じた。

柚木先輩とはなぜか暗くなる。

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