君のせい 志水×香穂子


「もし、僕がいなくなったらどうしますか?」 いきなり、それは本当にいきなりにつむがれた言葉で、香穂は一瞬止まった。 「え、帰るとか?」 「そうですね。」 何も感じていないのでは、そう思えるほど淡白に普通に答える彼に、 彼女は悔しさを感じて、でもあふれ出る気持ちは止まらない。 「嫌にきまってるじゃない。」 こうやって一緒に帰ることも、こうやって手をつなぐこともできなくなってしまう。 そんなの考えたくもなくて。 香穂の瞳が潤み、こぼれ落ちたしずくを見てようやく彼は気づいた。 「ごめんなさい、もし、ってだけです。帰る予定はないです。」 謝る彼に、釈然としない気持ちを感じる彼女は、ふいと顔をそらす。 その顔をふりむかせ、彼は涙を指でぬぐった。 「香穂先輩は、意外と弱い人ですね。」 「はぁ?」 本当にそう思うなら、馬鹿としかいえない。 彼女があんぐりと口をあけて、怒ろうとしても彼相手なら意味がないと思った。 彼はわかってないのだ、本当に。 普段からそうだ、彼にはからかおうとか、いやみを言おうなんて気はまったくない。 ただ素直に思ったことを口にするだけ。 だから諭そうと彼女は思った。 「あーもう、あのね、私が弱いんじゃないの。」 「そうですか?」 「そうだよ、別に私だって普通の友達だったらそんな悲しまないかもよ。」 「そうですか?」 「志水君だから、いなくなったらやだっておもうんじゃないの。」 言ってるうちにさらになんだか悲しくなって彼女は泣き出してしまい、 別に弱いわけじゃないっていいながら自分でも弱いかもと感じる。 そうだ、自分は極端にこの少年に関して弱い。 「志水君のことだと私弱いの。」 こんな泣いたりなんてしなかった、昔は、意外と淡白だといわれるくらいしっかりしてた。 「ごめんなさい。変なこと言い出して。」 そういいながら、彼の声がうれしそうで。 人を泣かせておきながら自分は幸せそうなんてずるいと思いながらも、 頭に触れる彼の手が心地よくて、彼女は身を任せるのだった。

思ったことを淡々と単語で言うのが彼だと思っています。

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