水玉ドロップ 志水×香穂子


風強く吹く放課後の教室。 私はひどく沈んだ心で歩いて、かばんを取ろうとしたら、彼がいた。 ふんわりと膨らんだカーテンの中に小さな男の子。 甘い、砂糖菓子みたいな見た目で、でもしっかりと芯があって。 風が吹くたびに彼が見えて。 彼は外を見ているようで、私に気づいていない。 そして、ああ、今日は一緒に帰る約束をしていたなぁなんていまさら思い出す。 一番大事な人との約束すら忘れてた自分の弱さを見た気がして、 ああ、だからだめなのよ、だから。 自分を攻め立てて、悲しくて悲しくて、なきたくて。 気づいたら私はカーテンごと彼に抱きついていた。 「香穂先輩?」 何も言わずに抱きついた私に、当然のごとく私の名を呼ぶ彼、 鈍いようで鋭い彼は。 「泣いているんですか?」 「泣いてないよ。」 体の震えとか声の震えで絶対わかってしまってるはずなのに、彼はそれ以上何も言わない。 ただ静かに私にカーテンごと抱きしめられている。 時間がゆっくりと流れて、私の心も落ち着いて、そうしたら私は逆に何てことしたんだ!ってなって。 ばっと手を離して、恥ずかしくて逃げようとしたら、手首をつかまれた。 思いのほか大きな手で。 「あっ。」 「何で逃げるんですか?」 「だって、恥ずかしいし。」 「やっとこうやって顔が見れるのに。」 手首を引っ張られた勢いで、私は彼に抱きしめられて。 「し、志水君。」 「先輩。」 「う、うん、なに?」 何を言われるかと思えば彼は私の髪に触れながら言った。 「僕以外にあんなことしないでくださいね。」

香穂ちゃんはなにかコンクールでいやなこと言われたということで。
泣いてるときに何も聞かないでいてくれるのは一種の才能です。
Back clap