犬も食わぬ 柚木×香穂子


「こんにちはー!!」 音楽科での普通科の制服は目立つ。 さらに同学年じゃなくて、上級生のクラスとなると、本当に目立つけれど、 最近ではみんなああ、あの子かくらいの反応になってきた。 そう、このクラスにはあの人たちがいるから。 「こんにちは日野さん。」 「香穂ちゃん!どうしたの?」 優美なそれこそ日舞の世界みたいな返事と元気一杯な返事が重なって、 この二人は本当に見てて面白いくらい水と油だと思う。 「火原先輩。」 「ん?」 「練習を一緒にしてもらえませんか。」 珍しく意識してかわいくいってみたら、先輩の顔はちょっと赤くなって、 からかっているわけじゃないけどかわいいななんて思う。 それと同時に、教室中に聞こえたんじゃないかという「ぴしっ」気配。 後ろに立っていた柚木先輩からでる冷たい冷気。 「あ、いいよいいよ?」 火原先輩は背中にあんな冷気しょってよく感じないなぁ、と逆の意味で尊敬する。 「日野さんは練習熱心だね。」 「ありがとうございまーす。」 おもわず出た気のない声に先輩はわずかな人にしかわからないくらい眉をひそめて、 その後悲しげな顔をした。 「けれど、最近僕を誘ってくれることが少なくて・・なにかわるいことをしたかな?」 そうやって作り物の悲しそうな顔をすると、まわりからさわさわと声が聞こえる。 「柚木さまを悲しませるなんて最低!」 「気を使わせるなんて!」 たいがいその熱意をほかに使えばいい彼氏がゲットできるのではとも思う親衛隊の人々。 でもこちとら負けてられない。 私も精一杯謙遜した顔を作ってみる。 「いえ、そんな!私まだまだへたくそなんで、柚木先輩のお耳に入れるような音じゃないんです。」 そういえば親衛隊の人たちはやはり近づいてほしくない精神からか納得しているようで。 勝った!!と私は心の中でガッツポーズをした。 「火原先輩こんなへたくそな私でもよければ練習をしてくれますか?」 「え、あ、大丈夫だよ、俺香穂ちゃんの音好きだし!」 あーなんていい人なんだ!心の中で涙を流しながら、私はにこりと柚木先輩に微笑んだ。 もちろん、その微笑みには深い深い思いを込めて。 こめかみに珍しくしわがよっていて、ブラック登場寸前みたいな顔をしていて。 やり込めた感に私はうきうきした。 「別に僕は下手な音じゃ嫌だなんていったことないのにな。」 寂しそうにつぶやく一言が本音なのかそれともまた演技なのか私にはわからなくて、 でも妙に耳に入って印象的では彼の顔をみればちょうどグレーあたりの顔で判別がつかない。 こういうのずるいななんて思いながら、それでも思い出す記憶。 いったじゃないかお前こないだ!! それはちょうど三日前。 私が入手したてでうれしかった楽譜をすぐに披露したくて走って聞かせたら。 「耳が痛い。」 「へたくそ。」 「俺に聞かせる音か。」 「練習しろ。」 そんなせりふをはいたのは何処の誰だなんて思い出して、一瞬で恨みは湧き上がる。 こうなったらなにがなんでもやり込めてやったれと思っていると。 「あーもう!!香穂ちゃんも柚木も意地はらない!!」 真ん中にちょうどだった火原先輩が急に大きな声をだしてそう言った。 「香穂ちゃんはなんか柚木と喧嘩してるのわかるけど、仲直りちゃんとしてね!」 私に向いて一言。 「柚木は練習一緒にしたいならしたいって言えばいいんだよ!」 柚木先輩に一言。 「じゃ、おれはオケ部で練習するからさ!ちゃんと仲直りしてね」 そういって、かばんとトランペットを手に颯爽と去っていく火原先輩。 なんだか一番強いのは彼なのではなんて思った。 そう思うとお互いの間抜けさが感じられるようで、私たちは笑い出してしまい。 「火原に見抜かれるなんてね。」 「そうですよ、説教されちゃいました。」 馬鹿にしてるわけじゃないけれどその事実はおかしくて、 いままでの険悪なムードは消えて私たちは屋上で練習することになって。 今回ばかりは火原先輩に感謝するべきだと思った。

喧嘩両成敗。火原先輩はそういう意味ですごいいい先輩だと思う。
現実的に柚木よりも火原がほしいよな。身近に(笑)
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