夢路へ 志水×香穂子


最近の志水くんは昔と違って眠らない。 私といるときは無理にでも起きていようと心がけているのか、 たまに眠そうな目をこすり必死に船をこがないように体をさせている。 そう言った私に志水くんは妙に神妙な顔でそう言った。 「難しいんです。」 「何が?」 「その、先輩といて寝ないようにするのがです。」 彼の会話はいつも断片的で、でも別に突拍子もないわけでもなくて、 最近では彼の断片的な発言をつなげるのがとてもうまくなったと思う。 ちなみにそれは誰にでもできることではないらしく、 天羽ちゃんや冬海ちゃんからあきれたような、驚いたような顔をされる。 私にとってはどんな勲章よりも誇らしい能力である。 「私といると眠いってこと?」 「そうじゃないんです、いや、そうかな?」 また自分の思索の海へ旅立ってしまった彼を追うのは最近はもうしない。 彼は必ず帰ってくることを知ってるから。 「先輩といるととても安らいで、眠くなるんです。」 「ありがとう。」 どんな褒め言葉よりもうれしい、そして照れくさい発言を恥ずかしげもなく伝える彼はやはりマイペース。 私の赤くなったほっぺになんて気にも留めず言葉を続ける。 「じゃあ、寝てもいいよ。私も志水くんの寝顔すきだもの。」 天使、としか言いようがないようなふわふわの綿菓子みたいな彼が寝るのをみるのは、 どんな人にとっても癒しだろう。 私にとっても癒しで、最近はそれがなくてちょっと残念だとすら思っていた。 けれども彼はゆっくり首を振った。 「寝ません。」 「どうして?」 「先輩といると安らいでねむくもなるんです。でも、それ以上に先輩のそばで声を聞いたり 先輩を見ていたいんです。」 顔が熱くなる。 そして、頭が沸騰する。 普段好きだとか、そういうことはまったく言わないくせに、彼はこういうときストレートだ。 まるで幼子が告白するように、けれどももっと現実的に、夢のような言葉を伝えてくれる。 「だから、寝ません。」 そういいながら、彼はうとろうとろした目をまた強くこすって。 「でも昨日遅かったんでしょ?」 「そうですね、ちょっとチェロで引きたいことがあって。」 「だったら寝ても良いよ。」 「でも。」 「ほら、こうやってそばにいれば、私の夢みれるよきっと。」 恥ずかしいけれど、肩に彼の頭をよりかからせて、そっと手を彼の目にかざした。 自然まぶたは閉じ、暖かさが心地よいのか、呼吸がだんだん長くなっていく。 すぅすぅと気持よさそうな呼吸に変わるのはすぐで。 眠った彼に、私は何よりも暖かい幸せを感じる。 「お休み志水くん。」 聞こえない彼に挨拶をして私は読みかけの本を開いた。 彼といるとどんなときもほわほわとした日常に変わって。 こんなうららかな日々が続けばいいと思う。 ふわふわゆれる彼の髪のくすぐったさすらいとおしくて。 私は少し彼の髪をなでて笑った。

志水くんのジレンマ。こういうほのぼのが彼の真骨頂ですよね。
志水くんがほしい。一家に一台!
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