たいようの花


彼女はそれを見て満足げに微笑んだ。 それは夢見ていた景色が目の前にあったからだ。 そうして、謝るように優しい手つきでそれを刈り取った。 季節は夏。その花の名前はひまわり。 汗の滴る真夏の太陽の下でアカリはひまわりを収穫していく。 腕の中には見事な花畑だ。 「アカリ」 ふとその真夏にまるで空耳かのような声が聞こえアカリはふりかえった。 逃げ水でぼんやりゆれて見えるその中に暑さなんて感じさせない人がたたずんでいた。 「チハヤ?」 心拍数が一つ上がる音がしてアカリはもう一度花たちを抱きしめた。 それは暑さだけではない。 今日これが終わったら夜に会いに行こうと心待ちにしていた恋しい人の突然の訪問で無理もなく ただでさえ熱いのにまた温度が上がった気がした。 遠慮もなくひまわり畑に入ってくる彼にアカリは微笑んだ。 「どうしたの?こんな急に。」 「ん、なんか暇だったし、いい野菜ないかなって思った。」 「そうだね、トマトとかできてるよ。」 「でも今は食べれないものに手一杯みたいだね」 「これのこと?うん、一度花畑を作って見たかったんだよね」 そういうアカリに彼は手を伸ばし花を受け取った。 「持ってくれるの?」 「いいよ」 チハヤはアカリが必死で持っていた花を軽々と腕に抱いた。 そうして、目を細めた。 「あまり花には興味ないんだよね。」 「そっか、持ってこうとおもったけど食材のがいいみたいだね」 「ん、でも、アカリの育てた花はきれいだと思うよ。」 そういってチハヤはあいた片手を伸ばし彼女の手をとった。 「ほら、アカリがこんなに手をぼろぼろにして作ったかと思うとね。」 そういって、いつくしむかのように握り締めた手は熱く、 アカリの顔色もすぐさま真っ赤になった。 「ちょ、チハヤ?!」 いきなりの言葉に驚いた彼女にチハヤは笑い出した。 「アカリは楽しいな。」 「んもう、からかったでしょ!!」 そういって、ふざけたように笑ったチハヤはそのいたずら以上に自分が笑いたかった。 今日も本心をいえなかったと。 笑いながらも離さない手に気づいてほしいと思うものの、アカリは赤く怒るだけで気づかない チハヤが彼女に会いに行く理由はいえないまま今日も冗談に消えたのだった。
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