君のすきな季節


春、それは牧場をやる人にとっては待ちに待った季節で、 ただ牧場をやる人を思う人にとっては・・。 ため息の増える季節だった。 「はぁ。」 無意識に出たため息に隣に立っていた師匠が笑った。 「チハヤはさっきからため息ばかりだね。せっかくのはるだってのに。」 「別に春は関係ないです。」 そうだ、関係ないと思っても、そとのきれいに咲いた花々なんか愛でたいとすら思えない。 むしろ憎たらしく見えるほど。 こんなことこの島に戻ってくるまでなかったのに。 むしろ春の食材が増えてうれしくなっていたのに。 今日で五日目。 そんなこと数えている自分にすら嫌気がさしまたため息。 「チハヤ。」 何も言わない師匠の目が笑っている。 それもため息の理由だと責任を押し付けてみる。 カラン。 ドアの開く小気味のいい音が鳴る。 「っ。」 まわしていたなべをいじる手を一寸止めてしまう。 僕にだってプライドがあるからまさか入り口を覗き込むまねなんてしないけども。 「こんにちはハーバルさん!」 マイの元気のよい声に期待がまた外れたことを悟る。 彼女じゃない。 「はぁ。」 またため息が出る。こんなにも人を思うなんて初めてだから、僕はたまにもてあましてしまう。 自分の気持を。 集中しようとたまねぎをみじん切りに黙々としていた。 「はぁ。」 集中の合間にもこぼれるため息、こればっかりは僕のコントロールすることじゃあない。 勝手に出てくるんだから。 「チハヤ疲れてるの?」 「別に。」 自然に返事をして、ふと頭を止める。 今の声、そして今の香り。 手を止め、顔を上げると彼女がいた。 アカリ、その人が。 「アカリ!!」 珍しく驚いてしまい、大声を上げるとみんなが厨房を覗いてほほえましそうな顔をしているのが恥ずかしかった。 「そうだけど、大丈夫?」 「別に。大丈夫だけど。」 よくよくみた彼女の姿は以前よりもぼろっとしていて、 土まみれだった。 「すごい格好だね。」 「あ、ご、ごめん。」 その照れ隠しの一言が僕のいやみに聞こえたのか、彼女は頬を染めて恥ずかしそうにした。 「ほんと、ごめん、こんな汚いのに厨房入ったりして。」 「いや、別にそういう意味じゃなくて。」 言い直そうとしている僕に師匠が声をかけた。 「チハヤ今日は早くあがって良いよ。」 「え。」 「春だからね。」 知ったり顔が気にくわないといったら気に食わないけども、ここはありがたく帰ることにしよう。 アカリの手をとって外へでた。 アカリはうれしそうだった。土まみれになりながらなんだかうきうきしてるみたいだった。 きっと冬の間ためていたパワーが春になり爆発したんだろう。 「さっきはごめん。」 「べつにそういう意味じゃないから。本当に。ただすごい働いてるんだろうなぁって。」 「うん。やっと春だからね。種を一杯植えたら水遣りが意外と時間かかっちゃって。」 大変なしごとだろうけど、アカリには嫌そうな気配はない。 ただうれしそうに笑っている。 「アカリ、でも五日も顔をみせないなんてひどくないか。」 「え、うそ、そんなに経ってたっけ?」 やっぱりこんなところだろうと思っていたがなんだかがっくりする。 そしてやっぱり日にちを考えていた自分が嫌になる。 「ごめん、集中しすぎちゃって。」 そうやって恥ずかしそうにする彼女もでも僕が愛した彼女だ。 「いいよ。」 そういって、僕はおもった、来年は同じ家に住んでいればいいと。 春が好きになるために、君のすきな春を好きになるために。
そういって春にプロポーズするちはやさんがいたりとか。
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