アオイトリ


青い青い、不思議な羽。 ある日朝起きたら青い鳥を見つけて、きれいで追いかけて、 一枚拾ったあの青い羽。 この村の人たちはその羽に突き動かされ結婚したんだろうか。 これこそ運命だって! 私はその一歩が踏み出せなくていつもポケットに入れながらため息をつくばかり。 最初は良かった。 羽を勢いで持っていこうとした。 けど、役場にいたギルをみて、目が覚めた気がした。 ギルと私は一応、付き合っていることにはなっている。 別に恋人だからっていう甘いものはあまりなくて、ギルはギルらしくて、 まぁわたしはそういうところも好きだけど、せいぜい仲のいい友達程度の私たち。 キスだってしたことなくて。 でも、それはいい。 ただ、仕事をきびきびしている彼をみて思ったのだ。 恋愛と結婚は別じゃないかと。 彼は村長の息子だし、それなりの責任を持っている。 もしかして、結婚はその仕事を支えてくれる女の人が良いんじゃないかと思った。 別にギルがなにも考えず私と付き合ってるとは思わないけれど、 なんだか不安になった私はとりあえず青い羽をポケットにしまいこんだ。 次の日も次の日も、次の日も今日に至るまで。 とどのつまり、私は牧場はやめたくない。 この島にきてのすべてが詰まっている牧場は大切なもので。 だからこそ、私は今ギルと牧場を天秤にかけて、選べない状態で足踏みしているんだ。 キルシュ亭にこんばんは行こう。 月のあかりに誘われて、なにも引きこもっている必要はないと私は向かった。 なんとなく一人ではいたくなかったのかもしれない。 もちろん、あかりにすかしていた青い羽をポケットにしまいこんで。 キルシュ亭はやはりこの時間からが盛り上がる時間。 シーラさんが踊っていたり、みんな思い思い盛り上がっていた。 私はちょっと端っこに座って、ぼおっとぶどうのカクテルを飲む。 カクテルは悩みなんて忘れさせてくれるほど甘くておいしかった。 ふととりだして、見る。 青い羽はちょっと毛羽立っていて、私が無理やりポケットに入れたせいだろう。 その毛羽立ちも一回撫で付ければ、元のきれいな状態に戻る。 それをみていると、マイの歓声が聞こえた。 「わぁ、アカリさんプロポーズでもするの?!」 マイの声に、周りの人たちも私に注目をする。 事情をしっていた、キャシー以外はにこにこと私を見ている。 「え、あ、拾っただけだよ!」 「えー、ギルに渡すんじゃないの?」 その見ている人の中にハーバルさんもいて、にこにこしていて、 私はそれが気まずくて、困った。 「ううん。渡さないよ。」 口をついて出たのは渡さないという言葉。 酔った勢いとはいえども、もしかしてこれが私の本心なんじゃないかなと思った。 私は結局牧場を捨てられない。 ギルのお嫁さんとして失格だ。 キルシュ亭は私の言葉に、なんだか残念ムードが漂う。 せっかくの盛り上がりを盛り下げて悪いなぁとおもう。 「マイ」 「なぁに?」 「これあげるよ。」 「え、と・・・。」 今度はまたキルシュ亭は盛り上がった。とはいえど、私はマイにプロポーズをするためにあげるといったわけじゃない。 ただ、あげたかっただけだ。 「そういう意味じゃなくて、ただ私は使わないからあげる。」 そうだ、こんな羽があるから私は悩むんだ。 なんのために私は牧場にきたのか。 何のために私はここまできたのか。 恋に流されるほど女の子になりきれなかった。 「え、でも。」 「あげるよ。マイが好きな相手にあげたら。」 含みをもたせて、マイに笑いかけると、彼女の顔は真っ赤になった。 そんなマイの反応を見ることなくお相手は料理に夢中で。 私はおかしくて笑った。 「でも、これはアカリさんのでしょ?」 「私は落ちてたの拾っただけだから。」 この村の風習どおりいくとまるで結婚したい人に羽が落ちてくるようだけど、 そんな分けない。 ということは別に私のものという分けないだろう。 「でも、きっとこの羽はアカリさんに使われるために、落ちてたんだよ。」 そういって、そっと手のひらに羽を返される。 「アカリさん、要らないなら私がもらってもいいかな?」 急にマイと私以外の声がかけられて私はびっくりした。 「ハーバルさん?」 「私がもらってもいいかな?」 「あ、はい。でも、ハーバルさん。」 「なんだね?」 「ギルに伝えちゃだめですからね、ここであったこと。」 そういうとハーバルさんはにこりとわらって大丈夫だよと言った。 だから私はやっかいな青い羽を処分できて、いい気分でもう一杯ぶどうのカクテルをひっかけて帰った。 *** 収穫が終わって、私は畑の真ん中に座っていた。 もちろん、苗を踏まないように。 こうしているとまるで自然に抱きしめられているようで、幸せだった。 今日はまだギルの顔を見に行ってない。 でも、なんだかあの羽を拾ってから、私たちの未来について考えてしまって、 それがないと考えたとき、私はもうこの関係をどうしたらいいのかわからなくなっていた。 別れる? そういう選択が浮かんできた。 でも、なんだか別れるというのにも付き合うということすらまともにしていないから、 へんな言葉遊びみたいに感じられて。 ずっと付き合いたてのように先も考えずギルが好きなだけで生きていけたらって思った。 そうおもったら、少しずつ悲しさとか、終わりとか、これが大人になるってことかぁとか そんなのが浮かんできて、私は泣き出していた。 雨のように地面にしみを作る私の涙。 大人になりたくないって、そう思って。 でも、大人になっていくんだろうな。 私は牧場を選んだ、そしてギルを選ばなかった。 だからきっとギルがいつか素敵な奥さんをもらうのだって見るのだろう。 それをそばで見ている私は、未来の私は何をおもうんだろう。 でも、それでもやっぱり私は牧場が捨てられない。 ギルがこんなにも好きだけど。 「ギルが好きだよ。」 小さくささやいたとき、風が強く吹いた。 そして、目の前にぽとりと一枚の羽が落ちてきた。 青い、青い、羽。 私はそれを拾い上げて、立ち上がった。 そして、風の吹いたほうをみると、ギルがたっていた。 「ギル?」 「ああ、それ拾ってくれたんだな。」 ほっとした顔のギルがいて、近づいてくる。 「これどうしたの?」 「どうでもいいだろう。」 ギルに羽を返すと、ギルはまた私に渡してきた。 「何?」 「意味わかるだろう。」 ギルは笑顔すらない顔でそれを言うから、私は何を表しているのかわからなかった。 「返事は?」 「え?」 彼はいらだたしげにそういって、私はまだよくわからなくて変な声をだした。 とたん、体を強く引かれて、私は気づいたらギルに抱きしめられていた。 「結婚してくれないか。」 私より身長の高いギルが少しかがんで私の耳元でそうささやく。 言われたことが理解できなくて、この状況が理解できなくて。 「アカリ?」 「なんで、ギルがそれを言うの?」 「そんなのどっちが言ったっていいだろう?」 「私、ギルのこと捨てようとしてたんだよ。」 「知ってる。父上から聞いた。」 ハーバルさんめ、あの笑顔で大丈夫とか言いながら、なんて心の中でちょっとののしる。 「でも、父上は僕のことを思ってくれてのことだ。許してやってくれ。」 「うん。でもさ。」 「アカリが何を考えてるのかは知らない。僕に愛想をつかしたというならしょうがないが、 それ以外なら別になにも不安に思うな。」 「だって。」 「僕はアカリ以外と結婚する気なんてないからな。」 ギルはそう言い切ると一層腕の力を込めた。 私はさっきまで泣いていたせいで涙腺が緩んでいて、涙がこぼれた。 ギルはいつもそうだ。 なんだかんだで、冷たくしながら私のすべてを包んでくれている。 「私だってギル以外とは結婚しないもん。」 「それは返事か?」 「うん。」 牧場の葉がさやさや揺れる。 さっきまで私の幸せのすべてだと思ったこの場所に、もう一つ幸せが加わって。 私はもう、欲張りすぎなんじゃないかってくらい幸せだった。
ハーバルさんは息子命だからかえってギルに青い羽を渡してすべて話したのです。 でもそれも息子と娘をおもってことです。 後日談 「そんなことで悩んでたのか?!」 「だって、ギルむかし落ち着いた女性がいいとか言ってたし、 そういう奥さんほしいのかなって思ったんだもん。」 「アカリは馬鹿だな。」 「なにそれ!」 「僕はアカリの牧場を含めて好きなんだ。」
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