赤い実はじけた


私の牧場。 暑い夏だからこそ、作物は元気にみずみずしく育っている。 私は額の汗をまたぬぐう。 この作業は確かに大変、だけども、それ以上に充実感があふれてて。 「あとちょっと、がんばろ!」 小さな実が膨らむのが私の最近の楽しみ。 はじめは黄色い花が緑の実になって、 そして、いまでは黄色い実がどんどん色づいて、赤く染まる。 つやつやのトマトがたわわにゆれてて。 それと同時に私は一人の少年のことを思い出した。 ギル。 私がこの村で初めてあった同世代の人であり、 私がこの島で一番信頼している人。 彼がトマトを好きって聞いたとき、もうこれは作るしかないって思った。 赤い実がなるのを夢見て待ってて今日はその収穫がやっとできそうで。 いままで毎日赤く染まってないのにもぎ取りそうな自分を抑えるのが大変だった。 一つ一つ丁寧にトマトをもぎとって。 私は水を上げたらすぐに走り出した。 橋を渡り、町へ出る。 緑の深い夏はとってもきれいで、初めての夏がとても好きになった。 毎日通るこのみちもなれた道だけどいつだってきれいだと思う。 私はこの島が好きだってすごく感じる。 階段を上がって、夏らしい日差しがあたって、私は汗がたくさん流れるのを感じた。 市役所に入ろうとして、でもこんな汚い格好みられたくないなって急に入りたくなくなって、 戸惑っていたらドアが開いた。 「アカリ?」 ギルが出てくる。 そして、びっくりした顔をすぐに引っ込めると、入れとぐいと腕をつかまれた。 ギルのひんやりとした手が触れたのになぜだか触れられた腕が熱い。 「熱いだろう?どうしてあんなところに突っ立ってたんだ。」 「いや、すぐ入ろうとおもったんだけど。」 ギルこそ、外にでる用事でもあったのかな。そう思ったら、 顔に書いてあるんじゃって思うぐらいいいタイミングで、エリィさんが笑いながら教えてくれた。 「ギルさんったらアカリさんはそろそろ来るはずだって、そわそわし始めて。 熱射病で倒れてるんじゃないかって外に探しに行こうとしてたんですよ。」 ギルはそうやってからかうように笑うエリィさんを少しにらみつけて、私の目を見てくれない。 でも私もうれしくて多分何も言えないから、こっちむいてなくてよかった。 「アカリ、散歩にいくぞ。」 エリィさんから逃げるようにギルは外に私をひっぱりだした。 熱風と太陽の日差しがまたとたんに肌に当たる。 「ギル、熱いね。」 「ああ。」 ギルは外にでたら本来の姿を取り戻したみたいに、もう普通だった。 すこしあわてるギルが楽しくて、残念だと思った。 熱いから、と海際を歩く。 海風はすこしだけ暑さを感じなくなった。 「ねぇ、ギル、今日も家の牧場で取れた作物もって来たよ。」 毎日、うちの作物がちゃんとできてるか、質はいいか、確かめてほしい。 そう春のとある日にギルに頼んで、了承してもらってもう何日たっただろうか。 そんなの単なる口実かもしれないと最近は思ってる。 ギルに会うための。 なんでだろう、やっと最近では島の皆と仲良くなりだして、 でも会いたいと強く思うのはギルなんだ。 この気持ちはもやもやして、ふわふわする。 「そうか、最近の作物はさらに磨きがかかったからな。」 そういって、思い出してくれているのか、ほんのりと口元が優しく緩んで笑みを浮かべる。 そういう表情がとてもうれしかった。 昔に比べてこれがたくさん見れるのもうれしかった。 「はい。」 渡したトマトにギルは目が輝く。 「トマトじゃないか!」 「うん、そうだよ。まっっかに熟させたから絶対おいしいよ。」 「ああ、見るからにおいしそうだ。」 うれしそうに、そう言うギルに私もうれしくなった。 「ギルトマト好きなんでしょ?」 「ああ。よく知ってるな。」 だって、昔話してくれたじゃない。 ギルが話してくれたこと忘れたことなんてない。 「だから、ギルのこと考えながら、ギルのために作ったんだ。」 私は笑顔でそういうと、ギルは固まった。 そして、その瞬間、目をそらされた。 「ギル?」 どうしたのだろう、なんかいやなこと言ったかな。 そう思って顔をのぞこうとすると、あわてた声が静止した。 「顔を見るな。アカリの馬鹿が。」 なんで馬鹿って言われなきゃいけないのよ! そう怒ろうとしたとき、私は気づいた。 ギルの耳が真っ赤なことに。 「お前は、そうやって軽くそんなこというな。」 「軽くないよ、本当のことだし。」 「本当に?」 「うん。」 「僕のことを考えて、僕のためにこれを作ってくれたんだな。」 「うん。」 「だったらうれしい。」 そういって笑ったギルの笑顔は今まで見たことがないくらいの笑顔で。 今度は私の顔に血が集まって、赤くなった気がした。 なんだろう、熱いからかな。 後で病院行こうかな。 ギルはそれ以上なにも言わなくて私たちは海をゆっくり散歩したけれど。 いつも以上にその散歩は幸せで私の胸の高鳴りはとまらなかった。 その後、私は病院にいって、ウォンさんに大笑いされて病名を聞いた。 そう、一つ目のトマトで私はギルに恋というものをしているということを知った、 そして、二つ目のトマトで、私は、ギルとの恋を実らせた。 三つ目からが永遠に続けばいいって思ってる。
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