キスキスキス


「おっはよーギル!」 彼の恋人の朝は早い。 もちろん彼もしっかり早起きをし、身支度、朝ごはんをこなしてここにいるが、 彼女はもっと早い。なんせ、ここに来る前に植物や動物の世話を終わらせて来ているのだ。 太陽の光に焼かれた彼女の肌はこんがり黒く、帽子が良く似合う。 いや、太陽が良く似合う少女だった。 「おはよう。」 冷静に彼が返事を返すとアカリはにっこりと笑った。 その笑顔は太陽のようだとギルは思う。 ただその笑顔は曲者だとも思う。 「今日もトマトジュース持ってきたよ、朝採れたてのトマト特製、新鮮トマトジュース!」 なつになってから毎日彼女は彼の好物のトマトジュースを差し入れしていて。 そこには深い深い愛情を感じている、感じている彼だが、いかんせんこの笑顔を見ると、 色気だとか毒気を抜かれる。 会う前には、次こそは夢に見るようなキスをだとか考えていても、 会えばそんな雰囲気どこにもなく、ましては恋をするのも初めてなギルにはどうやって作るかなど想像もつかなかった。 「ギル、元気ないの?」 「ああ、そんなことない。このトマトジュースは最高だな。」 「ありがとう!そう言われると頑張ったかいがあるなぁ!」 市役所を出て、日陰のベンチでもらったジュースを飲みながら、少しだけ二人きりで過ごす。 この時間と場所も悪いのだろうか。 なんだかこんな風にキスのことばかり考えているのは馬鹿らしいとも思うが、 それでも考えは頭をよぎる。 仕方ないじゃないか、男なんだから。好きなんだから。 半ば開き直った自分に自分であきれる気持ちもある。 以前はアカリが自分のものになったことだけで嬉しくて幸せだったのに、 もうさらに次を求めるなんて人間とは貪欲だなとギルは考える。 そうして、ふとアカリを見れば、幸せそうな顔。 「どうした?」 「ん、幸せだなぁって、おいしいジュースに、大好きな人の笑顔。」 アカリは色気こそないものの、物言いはストレートでたまにこうやってギルを驚かせる。 もちろん嫌な驚きではなくて。 そう言いながら笑うアカリの笑顔がかわいすぎて、 彼の思考回路は吹き飛んだ。 気付いたら、彼女の肩に手を触れ、自分の唇を押しつけていて。 「え、ギル?」 終わって数秒、お互いの空気が凍る。 混乱してなにがあったのか分らないアカリと、後悔して懺悔をしようか迷うギル。 「っ。」 悪かった、とギルがあやまろうとする瞬間に、アカリは顔を真っ赤にしていった。 「ギルのばか!ふいうちなんて、卑怯だよ。」 「すまッ!!!!!!」 謝ろうとした彼の唇に衝撃が走った。柔らかく一瞬かすめるように触れた唇はもちろん彼女のものだ。 「これで、おあいこ!!」 そういいながら、耳まで真っ赤にする彼女は最上級にかわいらしい。 もう一度したら、また返してくれるのかなんてことを考えながら、アカリを抱きしめれば、 幸せそうな笑い声が聞こえた。
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