白の世界


白銀の世界。 昨日降った雪はきれいに降り積もり、音を吸い込み、その空間を静かにしている。 道はきっと彼女が掻いたのだろう、人の一人通れるだけうっすら土色が見える道がある。 それだけで、あとは真っ白だ。 こうもきれいに雪が掻かれているということは、彼女は無事なんだろう。 一寸、ここに思わず来てしまった自分の行動の裏にある、 ほのかな恋心を思ったギルは寒さのせいだけではなく頬を赤く染めた。 あともう少し、彼女の家に着いたらきっと元気な笑顔が見れるだろう。 そう思い歩みを進めたときだった。 奇妙なものを見た。 それは緑の何か。 真っ白の雪に浮かぶ緑の・・人。 「アカリ!!」 雪に包まれるように、埋もれた彼女を見てギルは悲鳴のような声をあげた。 しかし返答は気の抜ける返事であった。 「あーギルじゃん。」 「大丈夫か?!」 まさか、雪かきで疲れて動けないのではないか。 この少女はしばしば働きすぎで倒れた。それが心配で今日も見に来たのだが、 悪い予感が的中するとはまさか思っていなかった。 「大丈夫?」 すこし、凍えているのかしたったらずな返答。 ギルは震える思いで、道から外れた小山に埋もれている彼女を力いっぱい抱き上げた。 「わぁ!!?なにすんの、ギル!」 真っ赤になった彼女は彼の胸を押す。 けれども、そのつめたい体を温めるように抱きしめる。 「僕が見つけてやったから、大丈夫だ。家まで連れてってやろう。」 「え、だからなによ。」 「動けないんだろう?」 「・・・ギル。申し訳ないんだけどね。」 アカリはバツが悪そうな表情で、まるで叱られるのを予期した動物のようにギルを見上げた。 「別に調子がわるいわけじゃなくて、ちょっときれいだからぼすって遊んでただけよ。」 アカリの言葉にギルは一寸とまり、そののち大きなため息をついた。 「アカリ・・・。」 「ごめんってば。」 「馬鹿じゃないか?!こんな寒い中。」 「だって雪なんてあんま見たことなかったから!」 にこにこと彼女がそういえばギルも脱力するしかない。 無事でいてくれたということを考えれば悪くないはずだ。 なのにこの脱力感はなんだろう。 「心配かけてごめんってば。」 そう言ってアカリは彼に抱きついた。 首に絡めた腕からギルの首筋に冷たいしずくが入り、驚いたものギルは彼女を離さない。 「えーと、なんで、そろそろ離してくれるかな。」 「嫌なのか?」 「いやじゃないけど・・ひとが来たら恥ずかしいでしょ。」 「誰もこない、今日みたいな日は普通家にこもってるんだ。」 「そうなの?・・ギルはどうしたの?」 聞いたものの、返事は聞こえない。 けれどアカリには答えなんてすぐわかった。 真っ白な肌なのに鼻と耳だけがじわりと赤い彼。 ふんと鼻を鳴らして答えない彼。 「私を心配してきてくれたの?」 言わなくてもわかる、アカリはドキドキと心臓が高鳴るのを感じ、もう一度ギルに抱きついた。 真っ白の世界二人はいつまでもお互いを離せなかった。
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